復職初日、それだけで力尽きて、家に着いた瞬間に涙が出たという方に、就労移行支援の現場で何度も出会ってきた。復職前は「元のペースに早く戻さなければ」と思っていたはずなのに、実際にはただ椅子に座っているだけで精一杯だった。この記事では、休職明けの「最初の1週間」をどう過ごすか、心身の準備と具体的な対処を当事者の声をもとに整理する(2026年10月時点の情報です)。
「今日は行けた」それだけで力尽きた初日
就労移行支援の現場で、復職を控えた方から必ずと言っていいほど聞く言葉がある。「元の自分に戻れるか不安です」というものだ。だが実際に復職した方の話を聞くと、多くの場合「戻れるかどうか」よりも先に、「思っていたより疲れる」という感覚に驚くことのほうが多いようだ。
元のペースに早く戻すことより、戻せる体を今日一日で少しずつ作ることのほうが先になる。
朝、いつもの時間に起きる。
電車に揺られる。
デスクに座って、パソコンを開く。
休職前なら何でもなかったはずのこの一連の動作が、復職初日にはひとつひとつ体力を使う作業になる。これは気合の問題ではなく、休んでいた期間の分だけ、体と心が「働くモード」から離れていたことの表れだとされている。
復職初日の一日は、こんなふうに過ぎていきやすい
具体的な場面で見てみる。朝6時半に起きて、久しぶりにオフィスに行く服に袖を通す。8時台の電車は、休職中の昼間の暮らしでは味わわなかった人の多さだ。9時に席に着くと、メールが何十通もたまっている。上司や同僚から「お帰りなさい」と声をかけられるたびに、笑顔で返さなければと気を張る。昼休みは誰かと食べるべきか、一人でいいのか迷う。17時に退社して家に着く頃には、まだ外が明るいのに頭が重く、夕食を作る力が残っていない。これが、復職初日に起こりやすい一日の流れだ。
押さえておきたいのは、疲れの正体が「仕事の難しさ」ではなく「刺激の量」にあることが多い点だ。通勤の人混み、周囲の話し声、挨拶や気遣い、パソコンの画面を見続ける時間。休職中は一日に受ける刺激が少なかった分、それが一気に戻ってくる。仕事の中身をほとんどこなしていなくても、帰宅後に動けなくなるのは自然なことだとされている。
だから、初日から3日目までは、家事の水準を意図的に下げておくと翌朝の体力が残りやすい。夕食は買ってきたもので済ませる、お風呂はシャワーだけにする、洗濯は週末にまとめる。「ちゃんとした生活に戻らなければ」という気持ちは、最初の1週間だけ脇に置いておいてよい。
「最初の3日間は、毎日帰りの電車で泣いてました。仕事の内容自体はそんなに難しくなかったはずなのに、椅子に座って周りの声を聞いているだけでどっと疲れてしまって。4日目くらいから少しずつ慣れてきて、1週間乗り越えたら『なんとかなるかもしれない』という感じがしてきました。最初の1週間さえ越えれば、というのは自分の実感としても本当だったと思います。」
最初の1週間は「やりすぎない」が最重要、60%から戻す考え方
復職直後にやりがちな失敗のひとつが、初日から100%の力で頑張ってしまうことだ。初日に無理をすると、2日目以降にその消耗のツケが回ってきて、かえって復帰のペースを崩してしまうという声がある。初日は60%、2〜3日目は80%、4日目以降で100%というように、段階を踏んで戻していく考え方が助けになる場合がある。
「60%」は、量だけでなく種類でも減らせる
60%というと「仕事の量を6割にする」と考えがちだが、疲れの原因は量だけではない。会議の数、電話対応、初対面の人との接触、締め切りのある業務など、「種類」を調整するだけでも消耗はかなり変わるとされている。たとえば最初の1週間は、慣れた業務を中心にして新規案件は持たない、会議は出席だけで発言は求められない、電話の取り次ぎは当面免除してもらう、残業はなしにする、といった形だ。「何を減らしてほしいか」を復職前に産業医面談や人事との話し合いで決めておくと、初日に慌てずにすむ。
勤務時間の組み立て方の例
会社の制度によって異なるが、段階的な復帰の一例としては、最初の1〜2週間は半日勤務(4時間前後)や時短勤務(6時間)から始め、その後フルタイムに近づけていく形がある。たとえば「1週目は午前のみ、2週目は6時間、3週目から8時間」のような設計だ。時短や半日勤務の制度があるかどうかは会社の規定次第なので、復職日が決まったら早めに人事へ確認しておくと安心できる。制度がない場合でも、診断書や主治医の意見書をもとに相談できることがあるため、「うちはやっていない」と言われても、一度で諦めずに産業医や支援者に間に入ってもらう方法もある。
復職の2週間前から、少しずつ整えておくこと
- 起床時間を、出勤日の時刻に合わせていく(30分ずつ前倒しでもよい)
- 午前中に1〜2時間の外出をして、人の多い場所に身体を慣らしておく
- 通勤ルートを一度試し、混雑する駅や乗り換えのしんどさを確かめておく
- 日中に机に向かって過ごす時間を、30分、1時間と少しずつ伸ばす
- 職場に「最初の1週間に減らしてほしいこと」を、メモにして持っていく
最初の1週間で意識したいこと
- 「元のペースで仕事を取り戻さなければ」というプレッシャーをいったん手放す
- 初日は「職場に行く」だけで十分と考える
- 帰宅後は仕事のことを考えず、早めに休むことを優先する
- 1日の終わりに、体調を3段階くらいで簡単にメモしておく
- 週末は完全休養日と決め、仕事関連の連絡は見ない時間を作る
職場での「小さなSOS」を出せるようにする
復職直後は「大丈夫です」と言い続けてしまいがちだ。無理をしていることに、本人が一番気づきにくい時期でもある。しんどいサインを早めに出せるようにしておくことが、長く働き続けるためには重要だとされている。
事前に決めておくと動きやすくなること
- 「しんどくなったら、まず誰に伝えるか」を1人決めておく
- 「疲れました」より具体的な、伝えやすい一言を用意しておく
- 体調確認のための産業医面談を、復職後いつ頃に設定するか決めておく
「復職して2週目、上司に『しんどい』って言うのがすごく怖かったんです。また休むと思われたらどうしようって。でも産業医面談で『我慢して悪化するより、早めに言ってほしい』って言われて、思い切って『今日は集中力が続かないです』って伝えたら、その日は簡単な作業に変えてもらえて。正直、拍子抜けするくらいあっさり対応してもらえました。」
そのまま使える「小さなSOS」の一言
「しんどいと言うのが怖い」と感じるのは、言葉の選び方が分からないせいでもある。理由や病状を細かく説明する必要はなく、「今の状態」と「してほしいこと」を一つずつ伝えれば足りる。たとえば次のような言い方だ。
- 「今日は集中が続きにくいので、午後は簡単な作業に回してもらえますか」
- 「少し疲れが出ているので、今日は定時で上がってもいいですか」
- 「会議が続くと消耗しやすいので、今週は議事の確認だけにしてもらえると助かります」
- 「明日の産業医面談の前に、今週の様子を一度整理しておきたいです」
この種の一言は、病名や詳しい経緯を話さなくても伝えられる。相手に「何をしてあげればいいか」が伝わるので、上司や同僚にとっても動きやすい。「迷惑をかけるのでは」と感じるときほど、具体的に頼むほうが相手は対応しやすいという声がある。
相手ごとの伝え方の目安
- 直属の上司:その日の仕事の量や種類を変えてほしいとき(口頭かチャットで短く)
- 人事担当者:勤務時間や休暇の扱いなど、制度に関わる相談(記録が残る形で)
- 産業医:しんどさの経過や、勤務の調整が必要かどうか(面談の場で。早めの面談設定を依頼しておく)
- 主治医:眠れない、食べられないなど、体調そのものの変化(次の診察を待たず、早めに連絡する)
50人以上の事業場には産業医の選任義務があり、復職後の面談を通じて働き方を調整できる場合がある。産業医がいない職場でも、人事担当者や主治医を窓口にして同じような調整を相談できることが多いようだ。
再燃サインと、使える制度・相談先
復職後に状態が悪化することは珍しくないとされている。次のようなサインが重なって続く場合は、早めに主治医や支援者に相談することが助けになる。
- 眠れない日が3日以上続く
- 食欲がなく、体重が急に変化している
- 出勤直前に強い身体症状(吐き気・動悸など)が出る
- 「また休まなければ」という気持ちが強くなる
- 仕事中の集中力が、休職前より明らかに落ちている
「なんとなく」を見逃さないための、1日1行の記録
再燃のサインは、本人が気づく前に少しずつ積み重なることが多い。そこで役に立つのが、1日1行の簡単な記録だ。「睡眠(何時間/途中で起きたか)」「朝の気分(3段階)」「食事(とれた/少なめ)」「出勤前の身体の状態(問題なし/重い/強い症状あり)」の4つだけで十分で、スマホのメモに書けばよい。3日続けて悪い方向に傾いたときは、次の診察を待たずに主治医や産業医に連絡する目安にできる。診察の際にこの記録を見せると、短い診察時間でも状況が伝わりやすい。
傷病手当金という、休職中を支える制度
傷病手当金は、業務外の病気やケガで働けず給与が支払われない場合に支給される制度で、目安として給与の3分の2程度が最長1年6ヶ月受け取れるとされている。時短勤務やリハビリ出勤など、休職時と給与の扱いが異なる働き方に移る際は、手当の扱いが変わることがあるため、加入している健康保険組合や協会けんぽに確認しておくと安心だ。支給期間は、支給開始日から通算して1年6ヶ月とされており、途中で働いて手当が出なかった期間があっても、その分を後ろに延ばして数える通算の仕組みになっているとされる(2026年10月時点の情報であり、詳細は加入先の窓口で確認してほしい)。
相談できる窓口
- 主治医(復職のタイミングや意見書の相談)
- 職場の産業医(50人以上の事業場に選任義務あり)
- リワークプログラムを実施している医療機関・支援機関
- 就労移行支援事業所、就労定着支援事業所(復職後の継続的な相談)
- 地域障害者職業センター(職場復帰を支援するプログラムを実施している地域がある)
- お住まいの地域の精神保健福祉センター(本人だけでなく家族の相談も受け付けている)
復職初日に行けなかった朝、復職後すぐ休んでしまったときの最初の24時間
ここまでは「行けた人」の話を中心にしてきた。だが現実には、復職初日の朝に玄関で足が動かなかった、あるいは数日働いたあとに起き上がれなくなったという方もいる。そんなとき多くの方が最初に思うのは、「やっぱりもう無理なのかもしれない」ということだ。結論から言うと、行けなかったことは失敗ではなく、今の負荷が高すぎるという大事な情報だとされている。
場面を思い浮かべてほしい。朝7時、準備はできている。靴も履いた。けれど玄関のドアノブに手をかけると、動悸がして吐き気がする。時計は7時40分で、始業は9時。この「あと80分」の使い方で、その後が大きく変わる。
行けない朝の、最初の24時間でやること
- 始業前(遅くとも始業の少し前)に、決めておいた窓口へ短く連絡する。理由の詳しい説明は後でよい
- 連絡を終えたら、いったん横になる。「なぜ行けなかったのか」を今考えるのはやめる
- 午前中のうちに主治医へ連絡を入れ、次の診察日か相談の方法を確認する
- 夜には、今日の朝の状態(動悸・吐き気・眠れなかったか)を1〜2行だけメモする
- 「明日行けるか」は、今日決めなくてよい。明朝の状態を見て、もう一度連絡すると伝えておく
連絡の文面は、長くする必要はない。たとえば次のような短いもので足りる。
「おはようございます。本日、体調が整わず出勤できません。午前中に主治医へ連絡し、状況が分かり次第あらためてご連絡します。」
これだけで、相手には「何が起きていて、次にいつ連絡が来るか」が伝わる。
休んだあと、次の一手を考える
休んだ日の夜から翌日にかけて考えたいのは、「もう一度同じ形で行くか」ではなく「負荷を下げ直すか」だ。主治医に伝えるべきことは、何時に起きたか、どんな症状が出たか、前日までの様子の3つ。そのうえで、勤務を半日にする、週の出勤日数を減らす、リワークプログラムなど復職前の準備段階に戻るといった選択肢が出てくることがある。どれを選ぶかは本人だけで決めず、主治医、産業医、人事の3者で話し合う形が現実的だとされている。
また、復職後すぐに再び休むことになった場合、休職期間が前回の休職と通算される規定を置いている会社もある。休職の上限期間や、傷病手当金の扱いが変わることもあるため、就業規則や人事担当者への確認を早めにしておくと安心だ(会社の制度によって異なる)。不安なときは、休職の延長を会社に伝えるまでの体験や、復職4日目に起き上がれなかった朝の話も、気持ちの整理の参考になるかもしれない。
家族・上司・同僚の方へ。復職してきた人に、最初の1週間どう接するか
この記事を読んでいるのは、復職する本人だけとは限らない。「家族が来週から会社に戻る」「部下が復職してくる」という立場の方にとっても、最初の1週間は迷いの多い時期だ。声をかけるべきか、そっとしておくべきか。答えは一つではないが、本人の側から見えている景色を知っておくと、動きやすくなる。
本人は、この時期「また迷惑をかけるかもしれない」「休んでいた分を取り戻さなければ」と強く思っていることが多い。そのため、善意の一言がプレッシャーになる場合がある。たとえば次のような言葉は、受け取る側にとって重くなりやすいとされている。
- 「もう大丈夫なの?」は、「大丈夫と答えなければ」という圧になりやすい。→「今日はどうだった? 無理しなくていいよ」
- 「頑張ってね」は、すでに頑張っている本人には負担になりやすい。→「帰ってきてくれてうれしい」「ゆっくりでいいよ」
- 「休んでた分、取り戻さないとね」は、60%から戻す考え方と逆の方向を向いてしまう。→「まずは慣れることからでいいよ」
- 「その後どう? 病気は?」と詳しく聞くのは、職場では避けたい。→ 業務に必要な配慮だけを、本人と確認する
家族ができること
帰宅した本人に、最初にかける言葉は「おかえり」だけで十分だ。「今日はどうだった?」と質問を重ねるより、本人が話したくなるまで待つほうが楽なこともある。食事は一緒に食べるが、会話は無理に作らない。週末は予定を詰め込まず、「何もしない日」を一緒に守る。家族自身もしんどくなりやすい時期なので、一人で抱えず、精神保健福祉センターや家族会など、家族向けの相談先を持っておくことも大切だとされている。
上司・同僚ができること
- 初日に「何をどこまでやってもらうか」を、紙1枚で決めて渡す(量と種類を絞る)
- 最初の1週間は、慣れた業務を中心にする。新規案件や締め切りの厳しい仕事は後回しにする
- 1日の終わりに5分だけ、「今日はどうでしたか」と聞く時間を持つ
- 病名や休職の経緯を、本人の同意なく周囲に広めない(職場への説明範囲は本人と相談して決める)
- 産業医面談を復職後の早い時期に設定し、必要なら勤務の調整をする
「腫れ物に触るような扱い」と「何もなかったような扱い」のどちらも、本人にとっては居心地が悪いことがある。ちょうどよい距離感は人によって違うので、迷ったら「どう接してもらうのがいちばん楽ですか」と本人に直接聞くのが近道だ。復職後の細かな連絡の取り方に悩んでいる場合は、復職前に会社から連絡がなくて不安だった体験や、時短勤務の診断書と人事の対応のずれの話も、本人側の気持ちを知る手がかりになる。
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