電話が鳴るだけで、手汗が止まらなくなる
事務職を数年続けてきた人が、ある時期から急に社名が言えなくなる。新卒1年目で電話営業を任され、最初の一声が出ずに同期に笑われた経験がずっと心に残っている。難発型の吃音がある人は、特に電話で症状が強く出やすいと言われています。相手の顔が見えない分、無言の数秒間がより重く感じられるからです。
「電話が苦手」というと、ただの人見知りやコミュニケーション下手だと誤解されることがあります。しかし吃音は、話したい言葉は頭の中にはっきりあるのに、声として出すタイミングがうまく合わない状態です。気合いや慣れで簡単に解決できるものではなく、本人が一番もどかしさを感じています。
「もしもし」が出てこないとき、何が起きているのか
吃音には大きく「連発(同じ音を繰り返す)」「伸発(音を引き伸ばす)」「難発(言葉が詰まって出てこない)」の3つのタイプがあるとされています。電話対応で特に苦しいと感じやすいのは難発型で、最初の一音がブロックされたように出てこなくなる状態です。本人としては「今すぐ話したい」と思っているのに、声帯や呼吸のコントロールがうまく合わず、無言の時間が続いてしまいます。
この無言の時間に、相手から「もしもし?聞こえていますか?」と言われたり、絶句した空気を感じ取られたりすることが、さらに本人を緊張させます。緊張すると症状が強まりやすいという悪循環が起きやすいのも、吃音の特徴のひとつです。
「練習すれば治る」という誤解との距離
吃音は精神論や根性で治せるものではありません。言語聴覚士による訓練や環境調整で症状と付き合いやすくなることはありますが、「人前で話す練習を重ねれば自然に治る」という考え方は、本人にさらなる重圧を与えてしまうことがあります。
「笑われた」記憶が、症状を強めることもある
一度でも電話対応で詰まって笑われたり、急かされたりした経験があると、次に電話が鳴ったときの恐怖感が増していきます。これは「気にしすぎ」ではなく、緊張と症状が相互に影響し合う、吃音特有のメカニズムです。
「電話が鳴る音を聞くだけで、胃のあたりがぎゅっとなる。出る前に深呼吸して、それでも『はい』が出てこない日もある。誰も悪気はないんだろうけど、『早く言って』みたいな空気を感じるのが一番こたえた。」
現場で試せる工夫と、職場への伝え方
吃音のある方が職場で求めている配慮として多く挙げられるのは、「吃音について正しく知ってもらう」「苦手な場面があることを理解してもらう」「話し終えるまで待ってもらう」「言葉以外の方法でも評価してもらう」といったことです。電話対応に関しては、具体的な配慮の形を整理しておくと、職場にも伝えやすくなります。
職場に伝えるときは、「電話が苦手です」だけで終わらせず、「電話対応を最初は免除してほしい」「詰まっても急かさず待ってほしい」「発言以外の方法でも評価してほしい」など、具体的な希望の形にしておくと、相手も対応しやすくなります。調査では、吃音を公表している人の方が職場での理解を得やすい傾向も報告されています。ただし、伝えるかどうか、どこまで伝えるかは本人の自由です。一人で決めきれないときは、支援員と一緒に伝え方を整理することもできます。
- 第一声を、自分が言いやすい言葉に変えてみる
- 電話対応の取り次ぎや分担を職場に相談してみる
- チャットやメールを使える業務配分がないか確認する
- 「急かさず待ってほしい」を具体的な配慮として伝える
- うまく言えなかった日も、自分を責めすぎない