障がい種別 / 吃音

吃音と電話対応——「もしもし」が出てこない苦しさと、職場でできる工夫

おのざる(mimemime)2026年6月読了目安:12〜15分
ゆっくり考える人のイメージ、就労・生活コラム

目次

  1. 電話が鳴るだけで、手汗が止まらなくなる
  2. 「もしもし」が出てこないとき、何が起きているのか
  3. 現場で試せる工夫と、職場への伝え方
電話が鳴る。手が伸びる。受話器を取った瞬間、「はい」の一言が出てこない。「は、は……」と詰まる数秒間が、永遠のように長く感じる。隣の席で誰かが小さく笑った気がする。そんな経験を繰り返すうち、デスクの電話を見るだけで胃が縮むようになった人もいます。吃音は、本人の努力不足でも、緊張しすぎる性格の問題でもありません。この記事では、吃音のある方が電話対応で感じる苦しさの正体と、現場で試せる工夫、職場への伝え方を整理します(2026年6月時点の情報です)。

電話が鳴るだけで、手汗が止まらなくなる

事務職を数年続けてきた人が、ある時期から急に社名が言えなくなる。新卒1年目で電話営業を任され、最初の一声が出ずに同期に笑われた経験がずっと心に残っている。難発型の吃音がある人は、特に電話で症状が強く出やすいと言われています。相手の顔が見えない分、無言の数秒間がより重く感じられるからです。

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障害と前向きに向き合う人のイメージ
障害と前向きに向き合う人のイメージ

「電話が苦手」というと、ただの人見知りやコミュニケーション下手だと誤解されることがあります。しかし吃音は、話したい言葉は頭の中にはっきりあるのに、声として出すタイミングがうまく合わない状態です。気合いや慣れで簡単に解決できるものではなく、本人が一番もどかしさを感じています。

電話の前で固まる、その一瞬 電話が鳴る 「は……は……」 「また失敗した」
本人の中では、ほんの数秒の間にこれだけのことが起きている
吃音の出方は人によって大きく異なります。電話だけがつらい人、初対面の挨拶がつらい人、特定の音が言いにくい人など、状況や言葉によって症状の強さが変わることも珍しくありません。

「もしもし」が出てこないとき、何が起きているのか

吃音には大きく「連発(同じ音を繰り返す)」「伸発(音を引き伸ばす)」「難発(言葉が詰まって出てこない)」の3つのタイプがあるとされています。電話対応で特に苦しいと感じやすいのは難発型で、最初の一音がブロックされたように出てこなくなる状態です。本人としては「今すぐ話したい」と思っているのに、声帯や呼吸のコントロールがうまく合わず、無言の時間が続いてしまいます。

この無言の時間に、相手から「もしもし?聞こえていますか?」と言われたり、絶句した空気を感じ取られたりすることが、さらに本人を緊張させます。緊張すると症状が強まりやすいという悪循環が起きやすいのも、吃音の特徴のひとつです。

「練習すれば治る」という誤解との距離

吃音は精神論や根性で治せるものではありません。言語聴覚士による訓練や環境調整で症状と付き合いやすくなることはありますが、「人前で話す練習を重ねれば自然に治る」という考え方は、本人にさらなる重圧を与えてしまうことがあります。

「笑われた」記憶が、症状を強めることもある

一度でも電話対応で詰まって笑われたり、急かされたりした経験があると、次に電話が鳴ったときの恐怖感が増していきます。これは「気にしすぎ」ではなく、緊張と症状が相互に影響し合う、吃音特有のメカニズムです。

「電話が鳴る音を聞くだけで、胃のあたりがぎゅっとなる。出る前に深呼吸して、それでも『はい』が出てこない日もある。誰も悪気はないんだろうけど、『早く言って』みたいな空気を感じるのが一番こたえた。」

20代・男性(吃音・事務職)

現場で試せる工夫と、職場への伝え方

吃音のある方が職場で求めている配慮として多く挙げられるのは、「吃音について正しく知ってもらう」「苦手な場面があることを理解してもらう」「話し終えるまで待ってもらう」「言葉以外の方法でも評価してもらう」といったことです。電話対応に関しては、具体的な配慮の形を整理しておくと、職場にも伝えやすくなります。

電話がつらいときに試せる工夫 ①第一声を決めておく 「お電話ありがとうございます」など 言いやすい言葉に置き換えてみる ②取り次ぎ役を決める 最初の対応だけ他の人に任せる 仕組みを相談してみる ③チャット・メールに置く 電話以外の手段を選べる業務配分 を一緒に考えてもらう ④待ってもらう関係を作る 「急かさず待つ」を周囲に知って もらうだけでも負担が減る
すべてを一度に変える必要はない。一つずつ試してみる

職場に伝えるときは、「電話が苦手です」だけで終わらせず、「電話対応を最初は免除してほしい」「詰まっても急かさず待ってほしい」「発言以外の方法でも評価してほしい」など、具体的な希望の形にしておくと、相手も対応しやすくなります。調査では、吃音を公表している人の方が職場での理解を得やすい傾向も報告されています。ただし、伝えるかどうか、どこまで伝えるかは本人の自由です。一人で決めきれないときは、支援員と一緒に伝え方を整理することもできます。

電話で詰まることは、能力の欠如ではありません。症状と付き合いながら働き続けている人は、すでに大勢います。

よくある質問

Q. 吃音は練習すれば治りますか?
吃音は本人の努力不足や練習不足が原因ではなく、症状の出方には個人差があります。「治す」ことを前提にせず、症状と付き合いながら働きやすい環境を整えていく視点が大切です。
Q. 電話対応を免除してほしいと言うのは迷惑でしょうか?
迷惑ではありません。「できません」ではなく「こうしてもらえると助かります」という具体的な配慮の形で伝えると、職場側も対応しやすくなります。
Q. 吃音があることを職場に伝えるべきですか?
伝えるかどうかは本人の自由ですが、調査では吃音を公表している人の方が職場での理解を得やすいという傾向が報告されています。伝え方や範囲は支援者と一緒に考えることができます。
Q. 吃音は障害者手帳の対象になりますか?
症状や程度によっては、音声・言語機能障害として身体障害者手帳の対象になる場合があります。2026年6月時点では、対象となるかは医療機関や自治体への確認が必要です。
電話がつらいときに大切にしたい5つのこと 1 詰まる自分を責めない 症状であって、能力の問題ではない 2 言いやすい言葉を見つける 決まり文句を自分用に置き換える 3 配慮は具体的な形で伝える 「助かる配慮」として希望を整理する 4 電話以外の手段も探す チャット・メールの活用を相談する 5 一人で抱え込まない 支援者・専門家に相談してみる
5つのポイントを、できることから少しずつ取り入れてみてください

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おのざる(mimemime)
就労支援員として障がいのある方の「働く」に伴走してきた経験をもとに、一人ひとりに向き合う支援を届けています。