鍵をかけたか、もう一度だけ確認したい
強迫性障害は、本人の意志とは関係なく繰り返し浮かぶ不快な考え(強迫観念)と、その不安を一時的に打ち消すために行わずにはいられない行動(強迫行為)の組み合わせで起きるとされています。職場での代表的な例として、メールの送信ボタンを押した後に何度も内容を確認し直す、施錠や戸締りが気になって遅刻してしまう、手が汚れている気がして何度も席を立って洗いに行く、といったことが挙げられます。
「気をつければ直る」「神経質なだけ」と見られがちですが、本人の中では「確認しないと、もし何か起きたら取り返しがつかない」という強い恐れが先にあります。確認した瞬間はほっとするものの、その安心は長く続かず、また同じ不安が戻ってくる。このループが一日に何十回も起きる人もいて、業務時間そのものを圧迫していきます。
なぜ「もう大丈夫」と思えないのか
強迫性障害では、「不安→確認→一時的な安心→不安の再燃」というサイクルが繰り返されることで、確認行為そのものが脳にとって「不安を消すための唯一の手段」として強化されていくと考えられています。本人も「これはやりすぎだ」「意味がないかもしれない」と分かっていながら、その場の不安に耐えられずに行動してしまう、というのが特徴の一つです。
厄介なのは、確認すればするほど「もっと確認しないと安心できない」感覚が強まりやすいことです。一度休憩時間に5回戻って確認した経験があると、次は6回でないと安心できなくなる。本人の意志の弱さの問題ではなく、不安と行動が結びついて固定化していく仕組みの問題だとされています。
「真面目すぎる人」という評価との距離
確認を重ねる人は、表面的には「丁寧」「ミスがない」と評価されることもあります。しかしその裏で、終業後も頭の中で確認作業が続いていたり、確認のために他の仕事が後回しになっていたりするなど、見えない負荷を抱えていることが少なくありません。
誰にも言えないまま、自分を責めてしまう
「こんなことで悩んでいるなんて言えない」「変な人だと思われたくない」という思いから、確認行為を隠したまま一人で耐えている人もいます。その結果、業務量に対して必要以上の時間がかかり、自己評価がさらに下がってしまう悪循環に陥りやすくなります。
「鍵をかけたか不安で、駅まで歩いてから引き返したことが何度もある。遅刻が続いて上司に怒られたとき、初めて『確認が止まらなくて』と話した。怒られると思っていたら、『そういうことなら、ドアの写真を撮って確認したら?』と一緒に考えてくれて、少し肩の荷が下りた気がした。」
確認をやめるのではなく、仕組みで支える
強迫性障害のある方が職場で感じる困りごととしてよく挙げられるのが、確認に時間がかかることそのものと、それを誰にも言えずに一人で抱え込む心理的な負担です。「確認をゼロにする」ことを目標にすると、かえって苦しさが増す場合があります。実際の現場では、確認という行為自体を否定せず、回数や時間に見通しを持てるような仕組みを取り入れることで、負担が軽くなったという声があります。
職場に伝えるときは、「強迫性障害です」だけで終わらせず、「確認に少し時間がかかることがあります」「ダブルチェックの仕組みがあると助かります」など、具体的な困りごとと工夫の形にしておくと、相手も対応しやすくなります。伝えるかどうか、どこまで伝えるかは本人の判断によります。一人で決めきれないときは、支援員と一緒に伝え方を整理することもできます。
- 施錠や送信内容は写真やスクリーンショットで「確認の記録」を残す
- 確認の回数や時間にあらかじめ目安を決めておく
- ダブルチェックを同僚や上司と分担できないか相談してみる
- 「確認に時間がかかることがある」を具体的な配慮として伝える
- 確認できなかった日も、自分を強く責めすぎない