「危ない人」だと思われたら、もう終わりだ
統合失調症は、幻覚や幻聴、考えがまとまりにくくなることに加えて、意欲の低下や表情の乏しさといった症状(陰性症状)が現れることがあるとされています。およそ100人に1人がかかるとされる、決して珍しい病気ではないにもかかわらず、「怖い」「何をするか分からない」といった誤ったイメージを持たれることが少なくありません。
このイメージは、本人が一番よく知っています。だからこそ、職場で少しでも変な空気が流れると「気づかれたのではないか」「もう信用されないのではないか」という不安が一気に膨らみます。実際には誰にも話していなくても、その恐怖だけで一日が消耗していくこともあります。
誤解はどこから来るのか
統合失調症は、かつて「精神分裂病」という病名で呼ばれていました。2002年に現在の名称へ変更されましたが、その間に広まった「何をするか分からない」というイメージは、名称が変わった後もすぐには消えませんでした。実際の症状とイメージの間に大きなギャップがあることが、誤解の一つの背景にあるとされています。
もう一つの理由は、陰性症状そのものが誤解を招きやすい形をしていることです。意欲が出ない、表情が動きにくい、会話が短くなる——これらは本人の努力不足や愛想のなさのように見えてしまいますが、症状の表れ方の一つだと考えられています。本人が「分かってもらえない」と感じる場面の多くは、ここから生まれています。
「普通に話しているだけなのに」というすれ違い
幻聴がある時期でも、外から見て分かるとは限りません。本人の中では声が聞こえていて、その対応に意識を使っているのに、周りからは「ぼんやりしている」「話を聞いていない」と見えてしまうことがあります。本人にしてみれば精一杯やり取りをしているつもりでも、結果として誤解が積み重なっていくことがあります。
「変わった人」という扱いが固定化してしまう
一度「変わった人」という見方がついてしまうと、その後の言動がすべてその枠で解釈されやすくなります。本人が体調の波で少し元気がない日も「やっぱりあの人は」という見方で受け止められてしまうと、関係を修復する機会自体が減っていきます。
「症状が落ち着いていても、『統合失調症』という言葉を出した瞬間に相手の表情が変わるんじゃないかと、いつも身構えていた。実際に話したときは、上司が『そうなんだ、教えてくれてありがとう』と言っただけで、特別な反応はなかった。身構えていた分だけ、拍子抜けするくらい何も変わらなかった。」
伝えるか、伝えないか——その間にある選択肢
「開示する」か「黒子のように隠し続ける」かの二択だと思われがちですが、実際にはその間にいくつもの選択肢があります。病名は伝えずに「通院のため月一回休みをいただきたい」と伝えるだけの場合もあれば、信頼できる上司一人にだけ簡単に共有しておく場合もあります。誰に、どこまで、どんな言葉で伝えるかは、本人が選べる範囲です。
どの段階を選ぶ場合でも、「病名」よりも「何があると助かるか」を先に言葉にしておくと、相手も対応しやすくなります。たとえば「声が聞こえて集中しづらい時間があるので、その時間は一人で作業できる場所があると助かる」というように、状態と工夫をセットで伝える形です。一人で言葉を整理するのが難しいときは、支援員と一緒に伝え方を練習することもできます。
- 「開示する/しない」の二択ではなく、伝える範囲を段階的に選べる
- 病名より先に「何があると助かるか」を言葉にしておく
- 最初は信頼できる一人だけに共有する選択肢もある
- 伝え方に迷ったら支援員と一緒に整理してみる
- 誤解されることへの恐怖は、症状以前に多くの当事者が抱える感情だと知っておく