断酒してしばらく経った頃、周りから「もう大丈夫だね」「治ったんでしょ」と言われることがあります。悪気はないとわかっていても、その一言に身体がすっと硬くなる人は少なくありません。断酒は始まりであって終わりではなく、働きながらもずっと続いていくものだからです。この記事では、アルコール依存症からの回復と仕事の両立について、当事者の声をもとに、職場復帰のタイミングや飲み会文化との付き合い方、使える制度を整理しました(2026年7月時点の情報です)。
断酒した日がゴールではない、というすれ違い
「もう飲んでいない」と聞くと、周囲はどうしても「解決した」「元通りになった」と受け取りがちです。本人からしても、断酒できたことは大きな一歩には違いありません。ただ、依存症からの回復というのは、その日を境にスイッチが切り替わるようなものではなく、飲まない状態を毎日積み重ね続けることそのものを指すことが多いようです。つまり、働いている間もずっと「回復の途中」であり続けるということです。
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心身の疲れを感じる人のイメージ
この感覚のズレが、職場での孤独感につながることがあります。周りは「もう心配しなくていい人」として接してくるのに、本人の中では今日も気を抜けば揺らぎかねない綱渡りが続いている。その落差を、いちいち説明するのも疲れるし、説明しなければ誤解されたままになる。どちらを選んでも消耗する、という声をよく聞きます。
断酒は一度の決意ではなく、こうした小さな選択を積み重ねる毎日のこと
「断酒して2年経った頃、上司から『もう完全に元気だね、心配いらないね』って笑顔で言われて。嬉しいはずなのに、なんだか突き放された気がしました。今でも飲み会の誘いを断るたびに緊張するのに、それはもう終わった話みたいに扱われているんだなって。」
40代・男性(アルコール依存症からの回復と営業職への復帰を経験)
「一番つらかったのは、体調が悪いふりをして飲み会を断り続けたことです。本当は正直に言いたかったけど、言った瞬間に色眼鏡で見られる気がして言えなかった。嘘をつき続けている後ろめたさと、本当のことを言えない苦しさ、どっちも抱えたまま働いていました。」
30代・女性(断酒3年目・事務職)
「早く働きたい」気持ちと、タイミングの難しさ
断酒がある程度続くと、本人も家族も「そろそろ働けるのでは」という気持ちになりやすいものです。生活のためにも早く仕事に戻りたい、これ以上迷惑をかけたくない、そう思うのは自然なことです。ただ、アルコール依存症は再飲酒が起こりやすいとされる時期があり、断酒を始めてすぐの期間に慌てて仕事に戻ることが、かえって負担になってしまう場合もあるようです。
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再飲酒のリスクや適切な復職・就職のタイミングは人によって大きく異なります。この記事の内容がそのまま当てはまるとは限らないため、実際の判断は主治医や支援者に自分の状況を具体的に伝えたうえで相談することをお勧めします。
仕事はストレスの原因になりやすく、生活リズムが変わることそのものが揺さぶりになることもあります。だからこそ「早く働きたい」という気持ちと、「もう少し土台を固めてから」という慎重さの間で、本人と家族の意見がすれ違うことも珍しくありません。焦って決めた復職が、かえって遠回りになることもあれば、逆に「まだ早い」と言われ続けて自信を失っていく人もいます。どちらが正解ということではなく、そのつど主治医や支援者と相談しながら、タイミングを一緒に見極めていく作業なのだと思います。
「早く働かなきゃ」と焦る気持ちが強いときほど、一人で決めずに主治医や支援者に今の状態を話してみてください。急ぐことと、土台を固めることは、実は両立できる場合が多いです。
ミミ
働き始めてからぶつかる、地味だけど重い困りごと
いざ働き始めると、断酒そのものよりも、日々の細かい場面での対応に消耗するという声が目立ちます。
- 歓送迎会や取引先との会食など、飲み会文化にどう参加するか、そもそも参加すべきか悩む
- 「なぜ飲まないのか」と聞かれたとき、体調不良を装うか正直に話すかで毎回迷う
- 過去の失敗を知る同僚がいる場合、信頼をどう積み直せばいいかわからない
- 通院や自助グループの集まりのために休みを取ることへの気まずさ
- 「もう大丈夫」という周囲の善意の言葉に、かえって孤独を感じる
特に飲み会の場は、断るたびに小さな緊張を伴います。ウーロン茶を頼むだけで理由を詮索されたり、逆に何も聞かれないことに安堵しつつも寂しさを感じたり。正直に話すか、隠すかという判断を、場面ごとに繰り返し迫られる負担は、外からは見えにくいものです。
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再飲酒は珍しいことではなく、回復の過程で起こり得るとされています。もし揺らいでしまっても、それだけで「すべてが失敗した」わけではありません。早めに主治医や支援者に相談することが、立て直しの近道になることが多いようです。
使える制度と、職場への伝え方
支えは一人で抱えなくていい
断酒を続けながら働くことは、本人の意志の強さだけに頼るものではありません。主治医、自助グループ(断酒会など)、職場の理解者という複数の支えが重なり合うことで、再飲酒のリスクを減らしながら働き続けやすくなるとされています。
どれか一つに頼りきるのではなく、重なり合うことで揺らぎに耐えやすくなる
精神障害者保健福祉手帳という選択肢
アルコール依存症は、それだけでは障害者手帳の対象になりませんが、治療を経てもなお長期にわたり日常生活に制限が残っている場合は、精神障害者保健福祉手帳の対象になることがあります。一般的には、初めて治療を受けた日から6ヵ月以上経過していることが条件の目安とされています(2026年7月時点の情報です)。手帳がなくても就労移行支援を利用できる場合があるので、まずは自治体の障害福祉窓口や、通っている医療機関のソーシャルワーカーに相談してみるのも一つの方法です。
職場への伝え方の例
病名や治療の詳細まですべて伝える義務はありません。業務や職場生活に関わる範囲を、必要な相手に必要な分だけ伝えるという考え方で十分とされています。
- 「体調管理のため、月に◯回通院しています」
- 「お酒は今は飲まないようにしているので、ウーロン茶でお願いします」
- 「詳しい事情は伏せておきたいので、上司止まりでお願いできますか」
断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)のような自助グループは、同じ経験をした人同士で気持ちを話せる場です。職場では言えないことも、そこでなら話せることがあります。
ミミ
依存症からの回復の過程、職場の状況、使える制度は一人ひとり異なるため、この記事の内容がそのまま当てはまるとは限りません。実際の判断は主治医・支援者・自治体の窓口とよく相談しながら進めることをお勧めします(2026年7月時点の情報です)。
「もう治った」と言われても、言い返さなくていい。今日も飲まずに一日を終えられたなら、それはもう十分な積み重ねです。
よくある質問
Q. アルコール依存症でも障害者手帳は取れますか?
アルコール依存症そのものだけでは対象になりませんが、治療により長期にわたり日常生活に制限が残っている場合は、精神障害者保健福祉手帳の対象になることがあります。一般的に初めて治療を受けた日から6ヵ月以上経過していることが条件とされています。詳しくは主治医や自治体の障害福祉窓口にご確認ください。
Q. 断酒してすぐ働いていいですか?
断酒直後は再飲酒のリスクが高い時期とされ、本人や家族が急ぎたい気持ちになりやすい一方、主治医は慎重にタイミングを計ることを勧める場合が多いようです。焦って復職や就職を決める前に、主治医や支援者とよく相談することをお勧めします。
Q. 職場にどう伝えればいいですか?
病名まで詳しく伝える義務はありません。飲み会への参加が難しいこと、体調管理のために通院が必要なことなど、業務や職場生活に関わる範囲を、必要な相手に必要な分だけ伝えるという考え方で問題ないとされています。
Q. 再飲酒してしまったら、もう働けませんか?
再飲酒は珍しいことではなく、回復の過程で起こり得るものとされています。それだけで「働けなくなる」と決まるわけではありません。一人で抱え込まず、早めに主治医や支援者に相談することが、その後の立て直しにつながりやすいようです。
この5点を頭に置いておくだけで、少し気持ちが軽くなるかもしれません
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新
おのざる / mimemime代表
就労支援の現場で当事者の声に向き合い続けてきた経験をもとに、生きた情報をお届けしています。