会議室に向かう途中で資料をばさっと落とす。コーヒーを注ぐたびに少しこぼす。「また?」という顔をされるたびに、練習が足りないんだろうかと自分を責めてしまう。発達性協調運動症(DCD)のある方の中には、目で見た情報と体の動きをうまくつなげることに、生まれつきの難しさを抱えている方がいます。この記事では、DCDと仕事の間で起きやすい場面と、職場でできる工夫を当事者の声をもとに整理しました(2026年8月時点の情報です)。
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「またやっちゃった」と、自分でも驚くくらい繰り返してしまう
「不器用」のひと言で片づけられてきた、身体の使い方の難しさ
発達性協調運動症(DCD)は、目で見た情報と手足の動きをつなげたり、力加減を調整したり、複数の動きを同時にこなしたりする力に関わる特性です。練習や気合の問題ではなく、体の使い方をつなぐ回路そのものに、生まれつきの難しさがあるとされています。まめざる
就労支援の現場で関わってきた中で、DCDのある方から繰り返し聞いてきた言葉があります。「不器用なだけだと思われて、練習すれば直ると言われ続けてきた」というものです。発達性協調運動症は、子どもの頃は「運動が苦手な子」として見過ごされやすく、大人になってから仕事の場面で初めて困りごととして表面化することも少なくないようです。
本人にとっては、書類を掴もうとした瞬間に指がうまく力を入れられなかったり、コーヒーを注ぐ角度がどうしても分からなかったりする感覚があるようです。しかし周りからは「気をつければできること」に見えてしまうため、「また落とした」「不器用だね」という言葉を繰り返し受け取ることになりやすいと言われています。
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この記事で紹介する内容は、DCDのある方に見られることがある傾向の一例です。感じ方や困りごとの現れ方には個人差があり、すべての方に当てはまるわけではありません。気になる症状がある場合は自己判断せず、医療機関にご相談ください。
「正直に言うと、入社してから3年くらいずっと『不器用だね』って言われ続けてました。書類を運ぶだけで角が曲がるし、ホチキスもまっすぐ留められないし、コーヒーを配ろうとしたら3回に1回はこぼしてました。先輩には『慣れれば直るよ』って言われ続けたんですけど、5年働いても全然直らなくて。ある日心療内科で発達検査を受けたら、DCDの傾向があるかもしれないと言われて、ああ性格の問題じゃなかったんだと、ちょっと泣きそうになりました。」
20代・女性(DCD・事務職)
相談の一コマ
相談者
何度練習しても、他の人みたいにスムーズに書類をさばけないんです。気合が足りないんでしょうか。
まめざる
気合の問題ではなく、目で見た情報と手の動きをつなげる力に、生まれつきの特性がある場合があるとされています。DCD(発達性協調運動症)と呼ばれることもあります。
相談者
病気みたいな名前だと、余計に自分がおかしいのかと不安になります。
まめざる
珍しいことではないとされていますし、病気というより体の使い方の特性です。このあと、職場でできる工夫も一緒に見ていきましょう。
DCDは性格でも練習不足でもない。協調運動をつなぐ力の特性
DCDがあると、「見る」「頭の中で組み立てる」「体を動かす」という一連の流れのどこかで、情報がうまくつながらないことがあるとされています。厄介なのは、そのつまずく段階が人によって違うという点です。ある人は物との距離感をつかむのが苦手で、別の人は頭の中で手順を組み立てるのに時間がかかり、また別の人は分かっていても指先がその通りに動かない、という具合です。
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DCDは単独の診断として扱われることもあれば、ADHDやASDと併せ持つ方もいるとされています。どのタイプの難しさが強く出るかは人によって異なるため、自分の傾向を知ることが工夫を考える手がかりになる場合があります。
「不器用」というひとことの裏には、3つの違う原因が隠れていることがある
この「つまずく段階の違い」を周りが知らないままだと、「気をつければ直る」という前提で見られてしまい、本人は繰り返し謝りながら同じ失敗を重ねることになりやすいようです。実際に、日々の体験を綴っている記事もあります。詳しい体験を知りたい方はこちらの記事(外部サイト)も参考になるかもしれません。
「倉庫のピッキング作業をしてたんですけど、半年くらいずっと梱包のスピードが人の半分くらいしか出せなくて、班長に何度も注意されてました。手先が不器用で、ガムテープを切る角度とかダンボールの畳み方とか、頭では分かってるのに手がその通りに動かないんです。練習しても全然縮まらなくて、自分は向いてないんだって落ち込んでました。今は書類の仕分けとか、細かい動きが少ない作業に配置換えしてもらって、だいぶ楽になりました。」
30代・男性(DCD・倉庫軽作業)
職場で起きやすい場面と、その場でできる工夫
DCDのある方が職場で困りやすい場面には、いくつかの傾向があるとされています。書類や小物を落としやすい、字を書くスピードや読みやすさに差が出やすい、飲み物をこぼしやすい、梱包や組み立てなど細かい手順の作業に時間がかかりやすい、といったことです。
その場でできる工夫
- 書類は片手で抱えず、両手で持つ・台車やトレーを使うなど「落としにくい持ち方」を決めておく
- 手書きが必要な場面は、可能であればタブレットやPC入力に置き換えてもらう
- 飲み物はふたつきの容器を使う、注ぐ量を少なめにするなど工夫できる
- 細かい作業は、時間に余裕を持たせてもらえるよう事前に伝えておく
職場に説明するときも、「DCDとは何か」を詳しく話す必要はありません。「細かい作業は少し時間をいただけると助かります」など、対応してほしいことに絞って伝える方法が助けになる場合があります。まめざる
伝え方の工夫
「不器用ですみません」と謝り続けるより、具体的な場面に絞って伝える方が、周囲にとっても対応しやすいとされています。病名や仕組みの説明よりも、「こうしてもらえると助かる」という一言のほうが、結果的に伝わりやすいという声もあります。
使える道具・制度と、相談できる先
障害者手帳という選択肢
DCD単独では、身体障害者手帳や療育手帳の対象になりにくいとされていますが、ADHDやASDなど他の発達障害と併せ持つ場合、精神障害者保健福祉手帳の対象になることがあります。手帳の対象になるかどうかは症状の程度や診断内容によって異なるため、詳しくは主治医や自治体の障害福祉窓口にご確認ください(2026年8月時点の情報です)。
頼れる相談先
- 発達外来のある精神科・心療内科(診断や特性の相談)
- 作業療法士(OT)のいる医療機関(体の使い方の工夫を専門的に相談できる場合がある)
- 発達障害者支援センター
- 就労移行支援事業所(特性理解を踏まえた働き方の相談)
DCDの症状の現れ方や必要な配慮の内容には個人差があります。この記事の内容がそのまま当てはまるとは限らないため、実際の判断は主治医や支援者とよく相談しながら進めることをお勧めします(2026年8月時点の情報です)。
何度練習しても直らないのは、気合が足りないからではありません。つまずきやすい段階を知り、その場でできる工夫を積み重ねていくことが、遠回りに見えて一番の近道になるかもしれません。
よくある質問
Q. DCD(発達性協調運動症)は正式な診断名ですか?
DCDは国際的な診断基準(ICD-11やDSM-5など)に位置づけられている診断名の一つとされています。ただし日本ではまだ広く知られているとは言えず、診断や特性の詳細については医療機関にご相談ください(2026年8月時点の情報です)。
Q. 障害者手帳の対象になりますか?
DCD単独では手帳の対象になりにくいとされていますが、ADHDやASDなど他の発達障害と併せ持つ場合は精神障害者保健福祉手帳の対象になることがあります。対象になるかどうかは診断内容や程度によって異なるため、主治医や自治体の窓口にご確認ください。
Q. 職場でどんな配慮をお願いできますか?
手書きをタブレット入力に置き換える、細かい作業に時間の余裕を持たせる、書類の持ち方や運び方を工夫するなどが挙げられます。すべてを一度に伝える必要はなく、業務に関わる具体的な場面に絞って相談する方法が助けになる場合があります。
Q. 練習すれば克服できますか?
作業療法などの専門的な訓練によって、生活のしやすさが改善する場合があるとされています。ただし個人差が大きく、一般的な練習方法だけで解消するとは限りません。無理に一般的なやり方に合わせようとせず、自分に合った工夫を探すことが大切だとされています。
Q. 何科に相談すればいいですか?
発達外来のある精神科・心療内科や、作業療法士のいる医療機関が相談先の一つとされています。まずはかかりつけ医や自治体の発達障害者支援センターに相談してみる方法もあります。
一度で完璧に理解しなくていい。この4点を、必要になるたびに読み返してもらえたら
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おのざる
mimemime代表。就労支援の現場経験をもとに、障がいのある方の働く不安に寄り添う記事を執筆。