「その手、大丈夫?」会議中に掻いてしまう気まずさ
就労支援の現場で関わってきた中で、アトピー性皮膚炎のある方から繰り返し聞いてきた場面があります。「会議中に無意識で腕を掻いてしまい、隣の人に『それ、大丈夫?』と聞かれるたびに、とっさに愛想笑いでごまかしてしまう」というものです。かゆみは我慢すればするほど強く感じられるとも言われ、集中したい場面ほど症状が気になってしまうという声も少なくありません。
本人にとっては、かゆみそのもののつらさに加えて、「掻いているところを見られた」「症状のある肌を見られた」という気まずさが重なります。うつるものではないと分かっていても、いちいち説明するのも大袈裟な気がして、結局は黙って袖を伸ばしたり、話題を変えたりしてやり過ごす方が多いようです。
「正直言うと、症状と付き合ってもう10年くらいになります。アパレルの販売をしていて、夏場は半袖の制服なんですが、接客中に二の腕がかゆくなって、我慢できずにレジの陰でこっそり掻いちゃうことがあって。ある日お客様に『大丈夫ですか、痒いんですか』って心配されて、逆にすごく気まずくなったんです。うつるものじゃないですって説明するのも変な空気になりそうで、その場は愛想笑いでごまかしました。上司に長袖にしてもらえないか相談したときは『接客業だから明るい印象が大事』って一瞬渋られて。結局、診断書を見せてやっと長袖に変えてもらえました。最初からそう言えばよかったなって、今なら思います。」
汗・乾燥・ストレスが重なって悪化する肌、見た目への視線という二重の負担
アトピー性皮膚炎は、汗・乾燥・摩擦・ストレスといった複数の要因が重なるほど、炎症とかゆみが強く出やすいとされています。一つひとつの要因は小さくても、いくつも重なった日ほど症状が強く出やすいというのは、就労支援の現場でもよく聞かれる話です。オフィスの乾燥した空調、満員電車での汗ばみ、締め切り前のストレス。どれも仕事にはつきものですが、アトピー性皮膚炎のある方にとっては、それぞれが症状を悪化させるきっかけになり得ます。
また、見た目に症状が出やすいことも、この病気ならではの負担につながります。厚生労働省の研究では、アトピー性皮膚炎のある方のうち、仕事の量や内容が制限されることが「時々ある」「よくある」「いつもある」と答えた人が3割を超えているとされています。「うつるんじゃないか」という誤解や、「大袈裟に見せているのでは」という視線を感じ、実際のかゆみや痛みに加えて、周囲にどう見られているかという気疲れを重ねて抱えている方も少なくないようです。
「就活のとき、面接官の視線が首元の湿疹にずっと向いてる気がして、それだけで頭が真っ白になったことがあります。入社してからも、エアコンの効いた会議室に長時間いると乾燥でかゆみがぶり返して、気づいたら手首のあたりを無意識にガリガリ掻いてて。隣の先輩に『それ、大丈夫?』って聞かれた瞬間、恥ずかしくてとっさに『あ、虫刺されで』って嘘をついちゃいました。3ヶ月くらい黙ってたんですけど、体調を崩して初めて上司に事情を話したら、意外とあっさり『保湿剤を塗る時間、休憩中に取っていいよ』って言ってもらえて。もっと早く言えばよかったなって、今は思ってます。」
症状の全部を伝える必要はない、職場に「場面」で伝える工夫
アトピー性皮膚炎の仕組みや治療の経過をすべて説明しようとすると、かえって伝わりにくくなることがあります。業務に関わる具体的な場面だけに絞って伝える方法が、双方にとって負担が少ないとされています。
具体的な場面に絞って伝えるという考え方
- 「二の腕や首元が乾燥や摩擦で悪化しやすいので、長袖を着たいです」
- 「保湿剤を塗る時間を、休憩中に少し取らせてください」
- 「エアコンの風が直接当たる席は乾燥がつらいので、席の配置を配慮してもらえると助かります」
- 「症状が肌に出ているだけで、人にうつるものではありません」
病名や治療の詳細まで伝える義務はありません。信頼できる上司や人事担当者に、業務に関わる範囲でまず共有し、そこからチーム内に必要な情報だけ広げてもらう、という進め方をとっている方もいるようです。就職活動の段階から症状の傾向を伝えておくことで、入社後の調整がしやすくなったという声も聞かれます。
使える制度と、一人で抱えないための相談先
身体障害者手帳という選択肢について
アトピー性皮膚炎そのものは、身体障害者手帳の対象になるとは限らないとされています。身体障害者手帳は視覚・聴覚平衡・音声言語そしゃく・肢体不自由・内部障害といった区分で交付されるものであり、皮膚疾患そのものは基本的に対象に含まれていません。ただし、症状に伴う合併症がある場合や、他の障害を合併している場合は、その障害について手帳の対象となるケースもあります。自分の状態がどの制度に当てはまるかは、主治医や自治体の障害福祉窓口に確認するのが確実です(2026年8月時点の情報です)。
手帳がなくても相談できることがある
手帳の有無にかかわらず、職場に配慮を相談すること自体は可能です。障害者差別解消法における合理的配慮の考え方は、必ずしも手帳の保有を前提としていません。「長袖を着たい」「保湿の時間がほしい」といった具体的な相談を、まずは人事担当者や産業医に持ちかけてみる方法があります。医療費の負担が大きい場合は、高額療養費制度など一般的な医療費の助成制度が使えることもあるため、加入している健康保険組合に確認してみるとよいでしょう。
相談できる窓口
- 皮膚科・アレルギー科(症状の記録や、働き方についての意見書の相談)
- 職場に選任されている産業医(50人以上の事業場に選任義務あり)
- 自治体の障害福祉窓口(合併症がある場合の手帳相談を含む)
- 就労移行支援事業所・ハローワークの専門窓口(体調管理を含めた就労準備や職場との調整)
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