発達・感覚特性 / 聴覚情報処理障害(LiD・APD)

聞こえるのに聞き取れない。聴覚情報処理障害(APD)の仕事の悩みと工夫

おのざる(mimemime)2026年7月(2026年10月改訂)読了目安:16〜18分
聞き取り困難(LiD・APD)と仕事をテーマにしたアイキャッチ画像

目次

  1. 音は聞こえているのに、言葉として分からない
  2. 静かな場所なら平気なのに、職場だと急に聞き取れなくなる理由
  3. 聞き返すことへの罪悪感と、職場への伝え方
  4. 使える工夫と、一人で抱えないための相談先
  5. 「分かったふり」でうなずいてしまった日。ミスに気づいてからの立て直し方
  6. 診断名がなくても配慮はお願いできる?手帳・制度・相談先の現実
聴力検査を受けても異常はないのに、職場の指示や電話の声だけがうまく聞き取れない。そんな困りごとは、聴覚情報処理障害(APD)や聞き取り困難症(LiD)と呼ばれる特性が関係していることがあります。「サボっている」「集中力がない」と誤解されやすい一方で、本人は毎回の聞き返しに罪悪感を抱えていることも少なくありません。この記事では、聞こえているのに分からないもどかしさと、職場での伝え方、使える工夫を当事者の声をもとに整理しました(2026年7月時点の情報です)。

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オフィスの打ち合わせで、複数人の会話の中、手を耳にあてて聞き取ろうと苦心する人物のイラスト
誰かが話しているのは分かる。でも、何を言っているのかがつかめない

音は聞こえているのに、言葉として分からない

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聴覚情報処理障害(APD)や聞き取り困難症(LiD)は、耳そのものの機能ではなく、音を言葉として処理する段階でつまずきが起きている状態だと考えられています。聴力検査で異常が出ないぶん、周りにも本人にも気づかれにくいんです。まめざる

就労支援の現場で話を聞いていると、「耳は悪くないと言われるのに、指示だけが聞き取れない」という相談に出会うことがあります。聴覚情報処理障害(APD)や聞き取り困難症(LiD)は、音自体はちゃんと耳に届いているのに、それを言葉として脳が処理する部分でうまくいかないことがある特性だとされています。耳鼻科で聴力検査を受けても「異常なし」と言われることが多く、そのぶん本人も「気のせいなのかもしれない」と自分を疑ってしまいやすいようです。

職場では、「これ、〇〇しといて」の肝心な部分だけが聞き取れなかったり、名前を呼ばれても気づかず無視したように見えてしまったりすることがあります。何度も聞き返すうちに、相手を不快にさせているのではという不安が積み重なっていく、という声もよく聞きます。

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聞き取りづらさの背景には、APDのほかにも発達特性や聴力そのものの問題など、さまざまな要因が考えられます。この記事の内容がそのまま当てはまるとは限らないため、気になる症状がある場合は自己判断せず、耳鼻咽喉科などの専門医に相談することをお勧めします。

自分の場合がどうなのかを整理するために、1週間だけ「聞き取れなかった場面」をメモしてみる方法があります。いつ・どこで・何人で・どんな音がしていたかの4点を書き留めるだけで十分です。1週間分たまると、「会議室より雑談のほうが苦手」「午後になるほど増える」といった自分の傾向が見えてきます。このメモは、耳鼻咽喉科で相談するときにも、職場に伝えるときにも、そのまま材料になります。

「飲食店でホールのバイトしてるんですけど、正直言うと、注文の聞き取りがずっと苦手でした。厨房がガチャガチャしてる時とか、複数人のテーブルで一気に喋られると、もう『これ○○○して〜』の○○○の部分が丸ごと消えるんです。最初の半年くらいは聞き返すたびにお客さんに変な顔されるのが怖くて、分かったふりして厨房に適当に伝えて、普通に間違えて怒られてました。今は指で数を示してもらったり、復唱して確認するようにしてるんですけど、それでも忙しい時間帯は無理な日もあります。」

20代・女性(聴覚情報処理障害の疑い・飲食店ホール)

静かな場所なら平気なのに、職場だと急に聞き取れなくなる理由

APDやLiDのやっかいなところは、いつも聞き取れないわけではないという点です。静かな部屋で1対1の会話をしているぶんには、まったく問題なく聞き取れることが多いようです。ところが雑音が混ざったり、複数人が同時に話したり、電話越しの声になったりすると、途端に聞き取りづらさが強くなる傾向があるとされています。この「できるときとできないときの差」が、周囲から「さっきは普通に話せてたじゃん」「気分次第なのでは」と誤解される原因のひとつになっているようです。

「相手の人数」と「場所の静かさ」で変わる聞き取りやすさ 静かな場所 騒がしい場所 相手が1人 相手が複数人 聞き取りやすい 1対1・静かな会議室など やや聞き取りづらい 1対1でも周囲の音が混ざる やや聞き取りづらい 静かでも話者の切り替えで迷う もっとも聞き取りづらい 会議・電話・にぎやかな職場 ※感じ方には個人差があります。あくまで傾向の一例です
「できるとき」と「できないとき」の差が、誤解を生みやすい

特に電話対応は、声のトーンや周囲の雑音がそのまま聞き取りづらさに直結しやすい場面のひとつです。相手の姿が見えず、口の動きなど視覚的な手がかりも使えないため、余計に聞き取りにくくなるという声もあります。会議も同様で、1対1なら平気でも、複数人が入れ替わりで発言する場になると、誰が何を話しているのかを追いきれなくなることがあるようです。

「営業事務やってて、電話取るのが一番きついです。正直、電話が鳴った瞬間に軽く動悸するくらい。会社名とか名前を一回で聞き取れたことがほとんどなくて、毎回『恐れ入ります、もう一度お願いできますか』って言うんですけど、3回目くらいになると相手の声のトーンが変わるの、分かるじゃないですか。あれがめちゃくちゃ苦手で、入社して1年くらいはトイレに逃げ込んで折り返すようにしてました。今は電話に出る前に一呼吸置いて、聞こえた部分だけでも復唱するようにしてます。完璧には程遠いですけど。」

30代・男性(聴覚情報処理障害の疑い・営業事務)

もうひとつ見落とされやすいのが、聞き取りそのものに使う体力です。雑音の中で言葉を拾おうとすると、普通の人が意識しないところで集中力を使い続けることになり、午後になると頭が回らない、会議のあとにどっと疲れるという声もあります。「集中力が続かない人」と見られてしまうことがあるため、疲れやすさも聞き取りの特性とつながっている場合がある、と知っておくだけでも気持ちが違ってきます。

聞き返すことへの罪悪感と、職場への伝え方

APDやLiDのある方の多くが口にするのが、「また聞き返してしまった」という罪悪感です。一度や二度なら気にならなくても、それが毎日何度も続くと、「自分は迷惑をかけている」という感覚が積み重なっていきます。相手が悪気なく「さっきも言ったよね」と返してくると、それ以上聞き返せなくなり、分からないまま作業を進めてミスにつながってしまう、という悪循環に陥りやすいようです。

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聞き返し方を少し工夫するだけで、相手に与える印象が変わることがあります。「え?」と聞き返すより、聞こえた部分を復唱しながら確認する方法のほうが、相手も答えやすいと感じるケースが多いようです。

聞き返し方を変えてみるという考え方

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聞き返すことは、サボりでも甘えでもありません。分からないまま進めて後で大きなミスになるより、その場で確認するほうが、結果的にはお互いのためになることが多いんです。まめざる

職場への伝え方としては、症状の詳細をすべて説明する必要はないとされています。業務に関わる具体的な場面に絞って、「こうしてもらえると助かる」という形で伝える方法が負担が少ないようです。

電話での聞き返しは、あらかじめ「使う一文」を決めておくと口が動きやすくなります。たとえば「恐れ入ります、周りが少し騒がしく聞き取りにくいので、お名前だけもう一度お願いできますか」「日付は復唱させてください。〇日の午後3時でお間違いないでしょうか」のように、何を聞き返したいのかを絞った形です。全部を聞き返すより、相手も答えやすく、通話も短く済みます。

相談の一コマ
相談者のアイコン
相談者
電話を取るのがずっと怖くて。何度も聞き返すうちに、周りにも変な人だと思われてる気がして、どう説明したらいいのか分からないんです。
まめざるのアイコン
まめざる
それはつらいですね。まず、症状の名前や仕組みを詳しく説明しなくても大丈夫なんです。「電話は静かな場所に移動してから対応させてください」のように、場面を絞って伝える方法もありますよ。
相談者のアイコン
相談者
場面だけ、でいいんですか?なんだか自分の困りごとをちゃんと伝えられていない気がして、逆に不安になります。
まめざるのアイコン
まめざる
全部を分かってもらおうとしなくて大丈夫です。「指示は口頭だけでなくメモも欲しい」など、できることから一つずつ伝えていけば、周りの対応も少しずつ変わっていくことが多いですよ。

使える工夫と、一人で抱えないための相談先

今日から試せる工夫

APDやLiDそのものを治す方法として確立されたものは、2026年7月時点ではまだ確立されていないとされています。一方で、環境を調整したり、道具を活用したりすることで負担を減らせる場合があります。

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会議の録音やリアルタイム字幕アプリは、会社によっては情報管理のルール上、使用に許可が必要です。便利そうだからと自己判断で使い始めず、「聞き取りを助けるために使いたい」と先に上司や人事に相談してから始めてください。

相談できる窓口

「分かったふり」でうなずいてしまった日。ミスに気づいてからの立て直し方

聞き取れなかったのに「はい」と答えてしまった。APD・LiDの傾向がある方から、いちばんよく聞く後悔のひとつです。その場で聞き返せなかったのは、弱さでも不注意でもありません。何度も聞き返して相手の表情が曇った経験を重ねると、「ここは流したほうが安全」と体が先に覚えてしまうからです。ただ、分かったふりは問題を先送りにしただけで、あとから大きな手間になって返ってきやすいのも事実です。

「月曜の朝10時、上司が資料の提出先と期限を口頭で言いました。『〇〇部に、△日までに』の△日の部分だけがどうしても聞き取れなかったんです。周りでは別の電話が鳴っていて、上司も急いでいる様子で、聞き返せずにうなずきました。午後3時に資料を送る段になって日付が分からないことに気づき、でも今さら聞けないと思って自分の判断で金曜にしました。翌日、本当の期限は木曜だったと分かりました。」

よくある相談の例(複数のご相談をもとに、個人が特定されないよう再構成しています)

この場面で大切なのは、「聞き返せなかった自分」を責めることより、ミスに気づいた時点でどれだけ早く動けるかです。時間が経つほど言い出しにくくなり、小さな取りこぼしが大きく見えてしまうからです。立て直しの流れは、次の4つに分けて考えると動きやすくなります。

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謝るのは「聞き取れなかったこと」ではなく、「確認が遅れたこと」で十分です。聞き取りにくさは本人の努力だけでは変えにくい部分なので、責める対象ではなく、仕組みで補う対象として扱ってみてくださいね。まめざる

もうひとつ、次の一手として使いやすいのが「確認のタイミングを先に決めておく」方法です。たとえば指示を受けたあと、5分以内に自分の言葉で要点をまとめて送る、と決めておきます。聞き取れていなかった部分は、その文面の空白として相手にも見えるため、「ここが抜けていますね」と補ってもらいやすくなります。その場で「聞き取れませんでした」と言うより、心理的なハードルがぐっと下がるという声もあります。

診断名がなくても配慮はお願いできる?手帳・制度・相談先の現実

「APDの診断書がないと、職場に配慮をお願いしてはいけないのでは」という不安もよく聞きます。結論から言うと、診断名の有無だけで配慮の話ができなくなるわけではないとされています。2024年4月に改正障害者差別解消法が施行され、民間の事業者にも合理的配慮の提供が義務づけられました。雇用の場面でも、障害者雇用促進法に基づく合理的配慮の考え方があります。ただし、何が「合理的」かは、本人の困りごとと職場の状況を話し合って決めていくもので、個別の事情によって変わります(2026年10月時点の情報です)。

障害者手帳の対象になるかは、人によって違う

聴覚障害を理由とする身体障害者手帳には、聴力レベルなどの基準があります。聴力検査で大きな異常が出ないAPD・LiDだけでは、この手帳の対象にならないことが多いとされています。一方、ASDやADHDなど発達障害の診断が別にある場合は、精神障害者保健福祉手帳の対象になる可能性があります。ただし、申請できるかどうかは主治医や自治体窓口の判断によります。「なるはず」「ならないはず」と決めつけず、一度窓口で確認してみてください。手帳の考え方は、障害者手帳は取るべきかの記事でも整理しています。

一般雇用で配慮を相談するか、障害者雇用か

どちらが良い悪いではなく、「今の困りごとの重さ」と「選べる求人の幅」のバランスで決める人が多いようです。決めきれないうちは、相談しながら情報を集める段階で大丈夫です。

相談先と、配慮をお願いするときの一枚メモ

職場に伝えるときは、診断名を長く説明するより、次のような「一枚メモ」にすると話が進みやすくなります。

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配慮のお願いメモ(例)
①困る場面:電話応対、複数人の会議
②起きること:音は聞こえるが、日時や名前を取りこぼすことがある
③お願いしたいこと:重要な指示は口頭のあとにチャットでも送ってほしい/電話は静かな場所で対応したい
④自分で行う工夫:復唱して確認する、要点をメモに取る
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「困っています」だけだと相手も動きづらいけれど、「こうしてもらえると動ける」まで添えると、話し合いが一気に前へ進みます。電話の苦手さについては、吃音と電話の仕事の記事も、伝え方の参考になるかもしれません。まめざる

一人で整理するのが難しいときは、mimemimeの無料相談でも、困る場面の書き出しから一緒にお手伝いできます。

聞き取りづらさの原因や、必要な配慮の内容には個人差があります。この記事の内容がそのまま当てはまるとは限らないため、実際の判断は医療機関や支援者とよく相談しながら進めることをお勧めします(2026年7月時点の情報です)。
聞き返すことは、甘えでも能力不足でもありません。「できるとき」と「できないとき」があるからこそ、具体的な場面を絞って伝えることが、自分を守る一歩になります。

よくある質問

Q. 聴覚情報処理障害(APD)は病気ですか、診断はできますか?
APD(聴覚情報処理障害)やLiD(聞き取り困難症)は、通常の聴力検査では異常が見つからないにもかかわらず、日常生活で聞き取りづらさを感じる状態を指すとされています。単一の病名として明確に診断できるものではなく、研究や理解が発展途上の分野だと言われています。気になる症状がある場合は、まず耳鼻咽喉科で聴力検査を受けることをお勧めします(2026年7月時点の情報です)。
Q. 聞こえているのに聞き取れないのはなぜですか?
音そのものは耳に届いていても、脳が言葉として処理する段階でうまく変換できていない状態と考えられています。静かな場所での1対1の会話は問題なくできても、雑音がある環境や複数人での会話になると急に聞き取りづらくなる、という特徴を持つ方が多いとされています。
Q. 職場でどう配慮をお願いすればいいですか?
症状のすべてを説明しようとせず、業務に関わる具体的な場面に絞って伝える方法が助けになる場合があります。「指示は口頭だけでなくメールやチャットでもいただけると助かります」「電話対応は静かな場所に移動してから対応させてください」など、具体的にお願いすると伝わりやすいとされています。
Q. どんな仕事が向いていますか?
一概には言えませんが、静かな環境で一人作業が中心の仕事や、メール・チャットなど視覚情報でのやり取りが多い仕事は選択肢の一つとされています。電話対応が多い職場やにぎやかな環境は負担になりやすい傾向があるようですが、環境が整ったコールセンターなどで働きやすいと感じる方もいるため、向き不向きは個人差が大きい点にも注意が必要です。
Q. 聞き返すことに罪悪感を感じてしまいます。どうすればいいですか?
聞き返すこと自体は悪いことではないとされています。「え?」と聞き返すより、聞こえた部分を復唱して「〇〇についてですね?」と確認する方法だと、相手に与える印象が和らぐ場合があるようです。それでも聞き返しづらいときは、後でメールやチャットで内容を確認できるようお願いする方法もあります。
Q. 診断名がなくても、職場に配慮をお願いできますか?
診断名の有無だけで、配慮の話ができなくなるわけではないとされています。民間の事業者にも合理的配慮の提供が義務づけられており(2024年4月施行)、困る場面と「こうしてもらえると動ける」というお願いを具体的に伝えることが、話し合いの出発点になります。配慮の内容や法律上の扱いは状況によって異なるため、ハローワークや就労移行支援などの窓口で確認することをお勧めします(2026年10月時点の情報です)。
Q. 聞き取れないまま「はい」と答えてミスをしてしまったら、どうすればいいですか?
気づいた時点で、その日のうちに事実を一文で伝えるのが基本とされています。「期限の部分を聞き取れておらず、確認が遅れました」のように、人格ではなく状況を説明し、再発防止として「重要な指示はチャットでも送ってほしい」など小さなお願いを一つ添えると、話が前に進みやすくなります。
聞こえているのに分からない:この記事のポイント 1 APD・LiDは聴力ではなく処理の特性 聴力検査では異常が出ないため、誤解されやすい 2 「できるとき」と「できないとき」がある 静かな1対1は平気でも、騒がしい複数人だと急に難しくなる 3 聞き返し方を変えると伝わりやすくなる 復唱して確認する方法は、相手にも答えやすい 4 場面を絞って伝えると負担が減る 症状の詳細より「どうしてほしいか」を共有する 5 道具と相談先を頼っていい 耳鼻咽喉科・産業医・就労移行支援など、頼れる先がある
この5点を頭に置いておくだけで、少し気持ちが軽くなるかもしれません

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mimemime代表。就労支援の現場経験をもとに、障がいのある方の働く不安に寄り添う記事を執筆。