ほっとしたのは、たぶん駅に着くまでの10分くらい。
改札を通ったあたりで、あ、会社に言わなきゃ、と思い出して。
そこから電話一本かけるまでに、4日かかりました。
「もう1ヶ月、休みましょうか」の帰り道
最初の休職は1ヶ月でした。
1ヶ月あれば戻れるだろうと、自分でも思ってたし、たぶん会社も思ってた。
でも1ヶ月たっても、朝はやっぱり起きられないし、会社の最寄り駅の名前をニュースで聞くだけで胸がざわっとする。
主治医にそのまま話したら、「もう1ヶ月、様子を見ましょう」と、あっさり診断書を書いてくれました。
先生にとっては、たぶんよくある話なんです。
でも私にとっては、「1ヶ月で戻ります」と言ってしまった約束を、自分から破りに行く電話でした。
いや、約束なんてしてないんですけど。してない、はずなんですけど。
かけない理由を、毎日ひとつずつ作っていた
1日目。
病院から帰ったらもう夕方の4時半で、「今かけたら、終業前のバタバタに割り込むことになるよな」と思ってやめました。
2日目。
朝9時前にかけたら、いつもの当日欠勤の電話みたいで変じゃないか。
10時は朝礼のあとで忙しそう。昼休みにかけたら休憩を邪魔する。
午後イチは会議が多い部署だし……と、「上司に電話する 何時がいい」で検索しているうちに、夜になってました。
3日目の午後2時すぎ、「今だ」と思って番号を押しました。
プルル、の1回目で、指が勝手に赤いボタンを押してた。
そのあとが最悪で。
着信履歴、残ったよな。折り返しかかってきたらどうしよう。出られなかったら、もっと変だよな。
スマホをクッションの下に埋めて、1時間くらい布団の中で心臓の音だけ聞いてました。
結局、折り返しは来なかった。ほっとしたのに、なんか、それはそれで落ち込んだ。
「新卒1年目の秋から休んでて、そのあいだ会社から一回も連絡が来なかったんです。放っておいてもらえるのはありがたかったんですけど、そのせいで『延長します』を言い出すタイミングが完全に分からなくなって。気づいたら12月の後半で、期限は年末。診断書はもう手元にあるのに、仕事納めの前に電話したら迷惑かな、とか考えてるうちにカレンダーだけめくれていって。あれ、ほんと意味わかんない時間でした。」
4日目。
今の休職期間が終わるのが、あと2日。
「さすがに今日かけないと、むしろ無断で休むことになる」と思って、やっとかけました。
かけられた理由は、勇気じゃなくて、期限でした。
「で、具体的にはどういう感じなの?」
電話そのものは、最初の30秒は拍子抜けするくらい普通でした。
「あ、そうなんだ。うん、了解。診断書は送っておいてね」。
そのあとです。
「で、具体的にはどういう感じなの?」
「夜は眠れてる?」
「薬ってずっと飲むもの?」
「原因って、やっぱり仕事?」
たぶん上司は、心配して聞いてくれてたんだと思います。責める感じは全然なかった。
でも答えているうちに、自分がどれだけ具合が悪いかを、自分の口で一個ずつ確認させられていく感じがして。
「原因って仕事?」には、うまく答えられませんでした。仕事、って言ったら上司を責めることになる気がして。「いや、いろいろで……」ってごまかして。
電話は12分でした。
切ったあと、そのまま2日、ほぼ寝て過ごしました。
休むために延長したのに、延長を伝えるので2日ぶん削れるって、なんなんだろうって。
「延長のたびに、病院で診断書をもらって、人事に電話して、上司にも電話して。同じ説明を2回するんですよ。それが毎月。正直、病気よりそっちのほうがしんどくて、『この電話をしなくていいなら、もう辞めてもいいかも』って本気で思ったことあります。辞めたい理由が延長の電話って、今思うと笑えるんですけど、あのときは全然笑えなかったです。」
2回目の延長のとき、電話がどうしても無理で、メールで送ってみたこともあります。
「〇日までの休職期間を、診断書のとおり〇日まで延長させていただきたく、ご連絡いたしました」。
送信して10分後に、電話が鳴りました。「メール見たよ、で、体調どう?」って。
……いや、それが嫌でメールにしたんですけど、とは言えず。
3回目の延長は、メールと封筒だけにした
3回目のとき、主治医にこの話をしたら、「連絡の窓口を一つにしてもらったら?」と言われました。
それで、人事の担当の人にだけメールを送りました。
「体調のことを電話で話すと、その後しばらく具合が悪くなってしまうため、今後の延長のご連絡はメールと診断書の郵送でさせていただけないでしょうか。上司の〇〇さんへは、人事の方からお伝えいただけると助かります」。
この3行を書くのに、1時間半かかりました。
「わがままだと思われる」「普通は電話だろって思われる」って、打っては消して。
診断書は、簡易書留で送りました。
添え状を入れるかどうかでまた一晩悩んで、結局、一筆箋に「診断書を同封いたします。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします」とだけ書いて入れました。
「ご迷惑を」のところだけ、3回書き直したのは、今でも覚えてます。
人事からの返信は、次の日の朝に来てました。
「承知しました。上司にも共有しておきます。お大事になさってください。」
2行でした。
……2行か、って。
あれだけ悩んだのに。拍子抜けというか、ちょっと笑ってしまいました。
怖かったのは会社じゃなくて、会社に説明しなきゃいけないと思い込んでいた自分の頭の中のほうだったのかもしれません。全部がそうだったとは言わないけど。
ちなみに、そのあとの4回目の延長も、同じメール1通と封筒1つで済みました。
電話は、一度もかかってきませんでした。
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