おのざるコラム / 支援員のノート

「内定おめでとうございます」と伝えた電話のあと、素直に喜べなかった。就労支援の現場で気づいた「受かること」と「続けること」の違い

おのざる(mimemime)2026年8月読了目安:11〜13分
毛布にくるまりマグカップを持つまめざるのイラストと共に「内定の電話を切ったあと、言葉が続かなかった」というタイトルと「就職はゴールじゃないと知った日」というサブテキストを示したアイキャッチ画像。左上には「おのざるコラム」のオレンジ色のカテゴリータグが添えられている

目次

  1. 内定の電話を切ったあと、うまく喜べなかった
  2. 「受かること」だけを目標にしていた1年目
  3. 辞めたと聞いた日に、初めて気づいたこと
  4. 今、大事にしているのは「入社後まで一緒に見ていくこと」
いつもの記事は、当事者の方々から伺った声をもとに書いています。この記事だけは少し違って、就労支援の現場に立つおのざる自身が経験したことを、一人称でそのまま書いています。個人が特定されないよう、複数の場面を組み合わせて書いていますが、そこにあった戸惑いや気づきは、実際にあったものです(2026年8月時点の情報です)。

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夕方の事務所で、切ったばかりの電話を見つめながら静かに考え込んでいる支援員の後ろ姿のイラスト。机の上にはノートとペン、湯気の立つマグカップが置かれている
「よかったですね」と言ったはずなのに、電話を切ったあと妙に静かな気持ちになった

内定の電話を切ったあと、うまく喜べなかった

mimemimeのマスコットキャラクター「まめざる」のアイコン
この記事に出てくる「Aさん」は、特定の一人ではなく、おのざるがこれまで関わってきた複数の方の経験を組み合わせた人物です。曜日や年齢、障害の種類などは実際とは変えてあります。まめざる

内定の連絡は、企業からいったん支援員である私のところに来て、それを本人に伝える、という流れのことが多くあります。Aさんのときも、そうでした。電話をかけて、「内定が出ましたよ」と伝えたとき、Aさんは「あ……はい、ありがとうございます」と言いました。声のトーンは、正直に言うと、思っていたより随分と静かなものでした。

それまで一緒に面接練習を重ね、想定質問にはほぼ完璧に答えられるようになっていて、企業からの評価も高かった方でした。だから私は、その日は素直に喜んでもらえるはずだと思っていたし、電話の向こうで「やった」という声を聞けると、なんとなく信じていたと思います。

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就職の受け止め方や、内定を聞いたときの反応には個人差があります。この記事で書いている一つの場面だけを見て「こういう反応をしなければおかしい」と考えるものではありません。

電話を切ったあと、しばらく受話器を置いた手が止まっていたのを覚えています。何かがずれている、という感覚だけがあって、それが何なのか、そのときの私にはまだ言葉にできていませんでした。「内定が出た」という結果と、Aさんの表情や声のあいだに、小さな隙間があったのだと、今なら分かります。当時の私は、その隙間に気づいていながら、深く考えることをしませんでした。

「受かること」だけを目標にしていた1年目

支援員になって1年目の私は、正直に言うと、支援の成果を「内定が出たかどうか」で測っていた部分がありました。面接練習の回数、想定問答の精度、書類の完成度。数字や結果として見えるものを整えることに、多くの時間を使っていたと思います。それ自体が間違っていたとは、今も思っていません。ただ、それだけを見ていた、というのが1年目の私の限界でした。

数字で測れるものだけを見ていた

面接の受け答えは、練習すればするほど上達が目に見えます。だからこそ、支援している側もされている側も、そこに達成感を感じやすいのだと思います。Aさんも、模擬面接では毎回びっしりメモを取り、次の回には必ず改善が見られる方でした。「ここまでできるようになった」という手応えは、確かにあったのです。

けれど、面接の点数や書類の完成度は、その人が実際の職場でどんな小さな不安を抱えやすいかまでは教えてくれません。休憩時間をどう過ごすか、分からないことを誰にどう聞くか、体調が少し悪い日にどう振る舞うか。こうしたことは、面接の練習だけでは見えてこない領域でした。

内定から3ヶ月、気持ちの波の一例 小さな違和感が 重なりやすい時期 支援が内定で 一区切りになりやすかった 内定 入社 2週間 1ヶ月 3ヶ月
内定の高揚感がいちばん見えやすく、そのあとの谷はいちばん見えにくい

入社から2週間ほど経ったころ、Aさんから短いメールが届きました。「少し聞きたいことがあります」というだけの、簡潔な文面でした。折り返し電話をすると、Aさんは、休憩時間の過ごし方がよく分からないこと、分からないことを誰に聞けばいいのか未だに掴めていないことを、ぽつぽつと話してくれました。その時点では、まだ「困っているけれど、なんとかやっている」という状態だったと思います。

それから3週間ほどして、Aさんから連絡がありました。「すみません、辞めることにしました」。理由を聞くと、大きな一つの出来事があったわけではなく、「毎日少しずつ気まずさが積み重なっていって、ある日もう無理だと思った」という説明でした。

辞めたと聞いた日に、初めて気づいたこと

正直に言うと、その電話を受けたときの私の最初の感情は、Aさんへの心配よりも先に、自分の支援は何だったのだろうという戸惑いでした。あれだけ面接練習を重ねて、企業からも高い評価をもらって、内定まで漕ぎ着けたはずなのに。数字の上では「うまくいった支援」だったはずのものが、3ヶ月も経たずに崩れてしまった。その事実をどう受け止めればいいのか、しばらく分かりませんでした。

後になって、Aさんが話してくれたことがあります。「面接のときは、聞かれることが分かっていたから、ちゃんと答えられたんです。でも入社してからは、聞かれてもいないのに自分から『分かりません』って言わなきゃいけない場面がずっと続いて。それがどれだけしんどいか、面接の練習では誰も教えてくれなかった」。この言葉は、今も支援をするうえで、私の中に残り続けています。

自分が関わった中で、印象に残っている言葉

面接という場面は、聞かれることがある程度決まっていて、準備した答えを出せば評価されます。けれど実際の職場は、聞かれてもいないことを自分から言わなければならない場面の連続です。「分かりません」「困っています」「今日は少し体調がよくありません」。この一言を言えるかどうかが、続けられるかどうかを大きく左右するのだと、Aさんの話を聞いて初めて実感として理解しました。

もう一つ気づいたことがあります。内定が出た時点で、私自身の中で「この人の支援は一区切りついた」という感覚が、無意識のうちにあったということです。もちろん、入社後の面談は制度としても組まれていました。けれど気持ちの面では、内定という分かりやすいゴールに向けて全力を注いだ反動で、そのあとの数週間を「フォロー」程度の軽さで捉えてしまっていた自覚があります。

今、大事にしているのは「入社後まで一緒に見ていくこと」

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就労定着支援という、入社後の生活面・職場面の相談を続けられる障害福祉サービスがあります。ただ制度があることと、支援員自身が「まだここからが本番だ」と捉え続けられるかどうかは、また別の話だと感じています。まめざる

Aさんのことがあってから、私は面接の点数や書類の完成度と同じくらい、入社後の最初の1〜2ヶ月をどう一緒に見ていくかを大事にするようになりました。具体的には、内定が出た時点をゴールではなく折り返し地点として扱い、入社後のスケジュールを先に決めておくようにしています。

面接の点数だけでは見えないものを聞く

入社後の面談では、「仕事はできていますか」ではなく、もっと具体的で小さなことを聞くようにしています。

これらは、面接ではまず聞かれない質問です。けれどAさんの経験を振り返ると、辞めるに至った積み重ねは、まさにこうした小さな場面の中にありました。数字には表れにくい違和感を、早い段階で拾えるかどうかが、続けられるかどうかに関わってくると、今は感じています。

入社3週間後の面談の一コマ(複数の場面を組み合わせた一例)
相談者のアイコン
相談者
仕事自体は、思っていたよりできています。ただ、お昼はいつも一人で、それが少し気まずいというか……でも、これくらいで相談していいのか分からなくて。
まめざるのアイコン
まめざる
「これくらい」と思えることこそ、早めに聞けてよかったです。お昼を一人で過ごすこと自体が悪いわけではありませんが、それが気まずいと感じているなら、一つの相談材料になりますよ。
相談者のアイコン
相談者
そう言ってもらえると、次から小さいことでも連絡していいんだって思えます。
まめざるのアイコン
まめざる
はい。大きな問題になる前の、小さいうちの声のほうが、実はいちばん助かります。

この面談の姿勢は、Aさんの経験がなければ持てていなかったものです。あのとき感じた「何かがずれている」という違和感を、電話を切った瞬間に深く追いかけていればと今でも思うことがあります。同時に、その経験があったからこそ、今関わっている方たちに対しては、内定という結果の先まで、もう少し粘り強く一緒に見ていられるようになったとも思っています。

この記事は、複数の支援場面を組み合わせた一例です。就職後にどのような支援が受けられるかは、利用している事業所や企業の体制によって異なります。実際の制度内容については、利用中の支援機関や自治体の障害福祉窓口にご確認ください(2026年8月時点の情報です)。
「受かること」と「続けること」は、似ているようで別の力です。内定が出た日を支援のゴールにせず、そのあとの数週間をどう一緒に見ていくかに、続けられるかどうかの多くがかかっていると、今は考えています。

よくある質問

Q. 就労移行支援を利用すると、内定が出たあとのサポートはどうなりますか?
事業所によって体制は異なりますが、内定・入社後も一定期間は職場定着支援として面談や職場訪問を行う事業所が多いとされています。ただし支援の頻度や期間は事業所ごとに差があるため、利用を検討している方は入社後の支援内容について事前に確認しておくと安心です(2026年8月時点の情報です)。
Q. 就労定着支援とはどんな制度ですか?
就労定着支援は、一般就労した方が長く働き続けられるよう、生活面や職場での困りごとについて相談支援を行う障害福祉サービスです。利用できる期間や内容には条件があるため、詳しくは自治体の障害福祉窓口や利用中の支援機関にご確認ください(2026年8月時点の情報です)。
Q. 内定をもらったあとに、なんとなく不安を感じたら誰に相談すればいいですか?
支援機関を利用している場合はまず担当の支援員に、利用していない場合は入社前に企業の人事担当者や産業医に相談する方法があります。「なんとなく不安」という段階でも、言葉にしてみることで整理できることがあるとされています。
Q. 早期離職は、本人の努力不足が原因なのでしょうか?
一概にそうとは言えないとされています。職場との相性、伝えられなかった小さな違和感の積み重ね、必要な配慮が共有されていなかったことなど、複数の要因が重なって離職に至るケースが多いようです。一人の責任として単純化しないことが大切だと考えられています。
見えにくい違和感の、4つの居場所 横:本人が気づいているか 縦:周りから見えるか 気づいていて、見える 「疲れました」と 言葉にできている 気づいておらず、見える 表情が暗いが 本人の自覚は薄い 気づいていて、見えない 一人で我慢している 違和感 気づいておらず、見えない 積み重なって、ある日 「辞めます」になる 右下のマスに早く気づけるかどうかが、続けられるかどうかを分ける
いちばん危ういのは、本人も支援者も気づけていない場所

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おのざる
おのざる
mimemime代表。就労支援の現場経験をもとに、障がいのある方の働く不安に寄り添う記事を執筆。