おのざるコラム / 支援員のノート

相談者が黙ると、こちらから喋ってしまっていた。就労支援の面談で気づいた「待つこと」の意味

おのざる(mimemime)2026年8月読了目安:10〜12分
毛布にくるまりマグカップを持つまめざるのイラストと共に「沈黙が怖くて喋りすぎていた」というタイトルと「面談で気づいた『待つ』ということ」というサブテキストを示したアイキャッチ画像。左上には「おのざるコラム」のオレンジ色のカテゴリータグが添えられている

目次

  1. 黙られると、こちらから喋ってしまっていた
  2. 「間を埋めること」が仕事だと思っていた
  3. 黙って待ったら、相手が自分の言葉で話し出した
  4. 今、面談で大事にしていること
いつもの記事は、当事者の方々から伺った声をもとに書いています。この記事だけは少し違って、就労支援の現場に立つおのざる自身が経験したことを、一人称でそのまま書いています。個人が特定されないよう、複数の場面を組み合わせて書いていますが、そこにあった戸惑いや気づきは、実際にあったものです(2026年8月時点の情報です)。

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小さな面談室の丸テーブルを挟んで座る支援員と相談者のイラスト。支援員はペンを握りながらわずかに視線をそらして緊張した様子で、相談者は少しうつむいて静かに考え込んでいる。テーブルの上にはノートと湯気の立つマグカップが置かれている
質問をしたあとの数秒間が、当時の私にはいつも長く感じられていた

黙られると、こちらから喋ってしまっていた

mimemimeのマスコットキャラクター「まめざる」のアイコン
この記事に出てくる「Bさん」は、特定の一人ではなく、おのざるがこれまで関わってきた複数の方の経験を組み合わせた人物です。曜日や年齢、障害の種類などは実際とは変えてあります。まめざる

「最近、仕事のことで気になっていることはありますか」。Bさんにそう聞いたとき、少しの間、返事がありませんでした。3秒か、4秒か。時間にすればそれだけのことです。けれど当時の私は、その静けさに耐えられず、「あ、例えば人間関係のこととか、作業のペースのこととか」と、自分で選択肢を並べ始めてしまいました。

Bさんは「あ、はい、そうですね……」と、私が挙げた選択肢の中から一つを選ぶような形で答えてくれました。面談としては、いちおう成立していたと思います。質問をして、答えが返ってきて、次の話題に移る。傍から見れば、スムーズに進んでいるように見えていたはずです。

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沈黙の感じ方や、話すまでにかかる時間には個人差があります。この記事で書いている一つの場面だけを見て「早く答えられないのはおかしい」と考えるものではありません。

けれど今振り返ると、あの3秒か4秒の間に、Bさんは自分の言葉を探していたのだと思います。私が先回りして選択肢を出したことで、Bさんは自分の言葉を見つける前に、私の言葉を借りて答えるしかなくなっていたのではないか。そう感じるようになったのは、もっとあとになってからのことでした。

「間を埋めること」が仕事だと思っていた

支援員になって1〜2年目の私は、面談中に間が空くことを、正直かなり気まずく感じていました。沈黙が続くと、自分の質問の仕方が悪かったのではないか、相手を困らせているのではないか、という焦りが先に立っていたのだと思います。だから、間が空きそうになると、反射的に言葉を継ぎ足していました。

「気まずさ」を埋めるための話し方になっていた

今にして思えば、あの頃の私が埋めていたのは、Bさんの不安ではなく、自分自身の気まずさでした。面談を「スムーズに進行すること」だと捉えていて、沈黙のない会話ができることが、支援員としての力量だと勘違いしていた部分があります。

実際、面談後のメモを見返すと、私の発言量はかなり多いものでした。感覚的な話ですが、当時の面談は支援員である私が7割ほど話し、Bさんが話すのは3割ほどという配分だったように思います。質問をして、少し待って、答えが出てこないとすぐに別の聞き方や具体例を出す。この繰り返しでした。

面談中の発話時間、以前と今の割合 感覚的な目安としての一例 以前 支援員 7割 相談者 3割 支援員 3割 相談者 7割 支援員の発話が減り、相談者の発話が増えた 割合が逆転したことより、聞ける話の質が変わったことの方が大きな変化だった
話す割合を減らそうと意識したのではなく、待てるようになった結果として割合が変わった

この配分に自分で気づいたのは、ある研修で「面談の録音を文字に起こして、自分の発言量を数えてみる」という課題をやったときでした。数字にしてみて初めて、自分がどれだけ喋っていたかを実感し、正直かなり恥ずかしい気持ちになったのを覚えています。

黙って待ったら、相手が自分の言葉で話し出した

転機になったのは、Bさんとの、ある面談でした。いつものように質問をしたあと、沈黙が始まりました。その日はたまたま、次の言葉が思い浮かばず、いつものように選択肢を出すことができませんでした。仕方なく、黙って待つしかなかったのです。

5秒、10秒。体感としては、かなり長い時間に感じました。何か言わなければ、という焦りが自分の中に湧き上がってくるのを感じながらも、その日はなんとかこらえて待ちました。

その沈黙のあと、Bさんはぽつりぽつりと話し始めました。「正直に言うと、さっきの質問、うまく言葉にできなくて。でも黙っていても急かされなかったので、ゆっくり考えてよかったんだって思えました。今までは、早く何か言わなきゃって焦って、適当な返事をしてたことが多かった気がします」。この言葉は、今も私の中に残り続けています。

自分が関わった中で、印象に残っている言葉

正直に言うと、その言葉を聞くまで、私は自分が「急かしていた」という自覚がほとんどありませんでした。選択肢を出すことは、相手を助けているつもりでいたのです。けれど早く埋めようとする私の態度そのものが、Bさんに「早く答えなければ」という無言のプレッシャーを与えていたのだと、そのとき初めて理解しました。

沈黙を「何もない時間」ではなく「考えている時間」として捉え直したのは、この出来事があってからです。Bさんが黙っていた数秒間は、空白ではなく、Bさんの中で言葉が組み立てられている最中の時間だったのだと、今なら分かります。

今、面談で大事にしていること

mimemimeのマスコットキャラクター「まめざる」のアイコン
「沈黙に耐える」というと我慢比べのように聞こえますが、実際には「相手の中で今、言葉が組み立てられている」と考え方を変えるだけで、待つことへの抵抗感がずいぶん軽くなります。まめざる

Bさんのことがあってから、私は面談の中で「間が空いたら、自分の中で5つ数えてから口を開く」という、ごく単純なルールを持つようになりました。難しい技術ではありませんが、これを意識するだけで、自分から話題を埋めてしまう癖はかなり減りました。

質問のあとに、もうひと呼吸置く

具体的には、面談の中で次のようなことを意識しています。

これらは、Bさんとのやり取りがなければ、今も気づかないままだったかもしれません。数字上は「スムーズに進んだ面談」に見えても、その裏で相手の言葉を奪ってしまっていることがある。このことを、今も自分への戒めとして持ち続けています。

ある面談の一コマ(複数の場面を組み合わせた一例)
相談者のアイコン
相談者
えっと……すみません、ちょっと考えさせてください。
まめざるのアイコン
まめざる
はい、大丈夫ですよ。急がなくていいので、思いついたときに教えてください。
相談者のアイコン
相談者
……正直に言うと、今の職場のことより、そもそも自分が何をしたいのか、まだよく分かっていなくて。
まめざるのアイコン
まめざる
そう思っていること自体が、今日聞けてよかったです。分からないまま話してもらって大丈夫ですよ。

この面談の姿勢は、Bさんの言葉がなければ持てていなかったものです。あの日、たまたま次の言葉が浮かばず黙って待つしかなかったことが、結果として一番大事な気づきをくれました。同時に、その経験があったからこそ、今関わっている方たちに対しては、間が空いたときに埋めるのではなく、少し多めに待ってみる、という姿勢を持てるようになったとも思っています。

この記事は、複数の支援場面を組み合わせた一例です。面談の進め方や沈黙への向き合い方は、事業所や支援員によって考え方が異なります。実際の支援内容については、利用中の支援機関にご確認ください(2026年8月時点の情報です)。
沈黙は、埋めるべき「穴」ではなく、相手の中で言葉が組み立てられている時間かもしれません。早く答えを引き出そうとするより、少し多めに待ってみることで、聞ける話が変わることがあると、今は感じています。

よくある質問

Q. 就労移行支援の面談では、具体的にどんなことを話すのですか?
事業所によって内容は異なりますが、生活リズムや就労に対する希望、これまでの経験、不安に感じていることなどを聞き取りながら、今後の支援計画を一緒に考えていくことが多いとされています。話す内容に決まった正解はなく、思ったことをそのまま話してもらって構わない場としている事業所が多いようです(2026年8月時点の情報です)。
Q. 面談中にうまく言葉が出てこず、黙ってしまいます。それでも大丈夫でしょうか?
大丈夫だとされています。沈黙は「話すことがない」状態ではなく、頭の中で考えを整理している時間であることが多いといわれています。無理に何か話そうとせず、思いついたときに言葉にしてもらえれば十分だと考える支援員も少なくないようです。
Q. 支援員に話した内容は、他の人に伝わってしまうのでしょうか?
相談内容の扱いについては、事業所ごとに守秘義務や情報共有の範囲についての方針があります。不安な場合は、話した内容がどこまで共有されるのか、利用開始時や面談の中で確認しておくと安心です。
Q. 面談で本音を話しても、支援員に「困った人」と思われませんか?
本音や困りごとを伝えることは、支援を組み立てるうえで欠かせない情報だと捉えられていることがほとんどです。具体的な困りごとを共有してもらえるほど、その人に合った支援を考えやすくなると感じている支援員は多いようです。心配より、伝えてみることの方が支援には役立つと考えられています。
「待つ」ために大事にしている4つのこと 沈黙は埋めるべき穴ではなく、考えている時間 質問のあとは、自分の中で5つ数える 選択肢を出すのは、本当に困っているときだけ 面談のあと、自分の発言量を振り返る
どれも特別な技術ではなく、日々の面談の中で意識できる小さな習慣

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おのざる
おのざる
mimemime代表。就労支援の現場経験をもとに、障がいのある方の働く不安に寄り添う記事を執筆。